2013年10月1日火曜日

本物の「ゼロ戦」を訪ねて(その2 機体)


「キラフテ 木の靴べら専門店」 店主の宮原です。


それではじっくりと実機を見てみましょう。

「意外に大きい!」









この実機は、南方戦線のタロア島に墜落していたもので、
それを譲り受け修復。


「零式艦上戦闘機三十二型」という型式で、それまでの零戦の
主翼の端を切り取って、空気抵抗を減らしました。

さらに、エンジンを新型に換装し、速度の上昇を狙ったもので、
本来の艦載機ではなく、陸上基地で使うために改造された型式。

ど迫力の機首!
70年以上も前に作られたとは思えません。


この三十二型の前の「二十一型」が最も有名な機種だと思うのですが、

 ・ 最高時速530km
 ・ 航続距離2200km(落下増槽つきで3300km)
 ・ 空中での優れた運動性能
 ・ 7.7ミリ機銃×2、 20ミリ機関砲×2  の重武装

を誇り、出現当時、まさに無敵の戦闘機でした。
米軍に 「零戦とは絶対に一対一で戦うな!」 と言わしめたほどです。



子供の頃に読んだ本に書いてあったんですが、
開戦前にこの「零戦」に対して、海軍から要求された性能は、
スポーツの世界にたとえると

 ・スピード性能においては「100メートル短距離走」で、オリンピック級。
 ・長距離性能においては、「マラソン」でこれもオリンピック級。
 ・格闘性能においては「格闘技」で世界チャンピオン。

これを一人の選手ですべて実現させるようなもの・・・だそうです。


世界にも全く前例のない海軍のメチャクチャな要求を、
当時の日本の工業力で実現するために堀越ら三菱重工のチームが
骨身を削るような努力を重ねたのが、  

   「徹底した空気抵抗の低減と、軽量化」。

これは零戦の前の「九十六式艦上戦闘機」の開発から堀越氏が
目指してきたものです。


特に軽量化において、堀越氏が部品設計チームに要求したのが、

   「1グラム単位」の軽量化!

人間にあてはめると 「スーパーマイクロダイエット」 といった感じでしょうか。











空気抵抗の低減に採用されたのが、「引き込み脚」。
飛行中は、翼の付け根にすっぽり収まります。
(それ以前の日本の戦闘機の脚は飛行中も出っぱなし)

これでスピードは大きくアップ。







「こんなに細くて大丈夫?」と心配になりますが、
空母にすら着艦できるんです。徹底した軽量化の成果。



機体後部の「尾輪」
こちらも機体内部に収納できます。





プロペラは3枚で、以前の飛行機に多かった2枚より増えて、
エンジンの回転力をより多く推進力に変換できます。

「ピッチ可変」といって、エンジンの回転の増減や、
飛行状態によってプロペラの角度を自由に変えることが出来ます。

プロペラの中央の膨らみに
複雑なギアが組み込まれています。






主翼をはじめ外板には、住友金属で開発された
「超々ジュラルミン」が採用されています。

日本独自の開発で、従来の「ジュラルミン(アルミの合金)」の上をいく
「超ジュラルミン」のさらにその1.3倍の強度を誇りました。
(ジュラルミン→超ジュラルミン→超々ジュラルミン)

この「超々ジュラルミン」の強度を活かして、外板を薄くすることができ、
軽量化につながります。

補填した外板も多いですが、きれいに修復しています。





また主翼には、低速でも失速しにくい「翼端ねじり下げ」という
微妙なねじりが付けられていてます。

スペースの狭い航空母艦への着艦性能も高められています。
翼の先端に付いている「ピトー管」
これで飛行機の速度を測ります。





主翼の付け根と、胴体との繋ぎ目には緩やかなカーブを付けて
翼と胴体の間に流れる空気抵抗を減らします。
フィレット」といい、現在の大型ジェット旅客機にも採用されています。






また飛行機に使われる外板のアルミ合金は溶接がきかないので、
アルミの鍋などに使われる「リベット」で留めていました。

一般的なリベットは頭が半円形になっていて、飛行機に使用すると
その飛び出しが空気抵抗となり、飛行性能がかなり悪くなってしまいます。

そこで、いったんリベットを締め付けた後、半円形のリベットの頭を、
ひとつずつ削り落とさねばなりませんでした。



そののち、頭が平面の「皿型リベット」が使用されるようになり、
いちいちリベットの頭を削る必要は無くなりました。

しかし今度は、皿形のリベットが、飛び出さないために、
あらかじめ外板に皿形の凹みを削る工程が必要になりました。

空気抵抗は減らせても、またしても莫大な労力がかかってしまいます。
また凹みを削った分だけ外板の強度が落ちます。



そこで、堀越氏は「枕頭鋲(枕頭リベット)」を採用。

外板にリベットの穴だけを開けて、リベットを裏側から締め付けていくと
リベットが外板に自然に食い込んでいき、リベットの頭を削る工程も、
外板に凹みを削る工程も無いまま、外板をフラットに保つことが出来ます。


これにより、外板の強度を落とすことな空気抵抗と製造コストを
大幅に低減することが出来ました。


胴体のラインは直線ではなく、
なだらかな曲線で構成されています。
空気抵抗を少しでも減らすための工夫です。





「垂直尾翼」、「水平尾翼」などの操縦席から離れた部分の操作は
「ワイヤー」で操縦桿などを引っぱって行っていました。
(現在の戦闘機は、電気信号)

しかし航空機の速度が上がってくると、低速だった時代には問題なかった
「舵の効き過ぎ」という問題が起こってきました。

時速500kmを超える高速では、主翼をはじめ垂直尾翼や水平尾翼にも
大きな空気抵抗がかかっている状態となり、操縦桿のわずかな動きでも、
機体が大きく動いてしまい、操縦者の意図以上の動きをしてしまいます。

垂直尾翼






そこで堀越氏は、操縦桿と舵がつながっているワイヤーの強度を
あえてと落とし、伸びやすくました。

飛行速度が上がり、舵に大きな空気抵抗がかかった状態では
ワイヤーが大きく伸びて、舵の動きが小さくなり、パイロットが
意図した機体コントロールが出来ます。

逆に速度が低速の時は尾翼にかかる空気抵抗は小さいので
ワイヤーは伸びることなく舵も大きく効いてくれるのです。
これも堀越氏の考案で、「世界初」 です。

水平尾翼


「零戦」についての逸話をひとつ。



当時、中国大陸にて、義勇軍として戦っていた米軍の将軍から

 「日本の強力な新型戦闘機が出現せり」

という無電を受け取ったアメリカ本国は、


「君は臆病風に吹かれているのではないのか?
日本がそんな戦闘機がつくれるわけがない。
本当に存在するなら、その実物を送られたし。」

と返信しました。



しかしそれは長い間実現しませんでした。


なぜならその当時に「零戦」を撃墜できる戦闘機は
米国にすらなかったからです・・・