「キラフテ 木の靴べら専門店」 店主の宮原です。
それではじっくりと実機を見てみましょう。
「意外に大きい!」 |
この実機は、南方戦線のタロア島に墜落していたもので、
それを譲り受け修復。
「零式艦上戦闘機三十二型」という型式で、それまでの零戦の
主翼の端を切り取って、空気抵抗を減らしました。
さらに、エンジンを新型に換装し、速度の上昇を狙ったもので、
本来の艦載機ではなく、陸上基地で使うために改造された型式。
ど迫力の機首! 70年以上も前に作られたとは思えません。 |
この三十二型の前の「二十一型」が最も有名な機種だと思うのですが、
・ 最高時速530km
・ 航続距離2200km(落下増槽つきで3300km)
・ 空中での優れた運動性能
・ 7.7ミリ機銃×2、 20ミリ機関砲×2 の重武装
を誇り、出現当時、まさに無敵の戦闘機でした。
米軍に 「零戦とは絶対に一対一で戦うな!」 と言わしめたほどです。
子供の頃に読んだ本に書いてあったんですが、
開戦前にこの「零戦」に対して、海軍から要求された性能は、
スポーツの世界にたとえると
・スピード性能においては「100メートル短距離走」で、オリンピック級。
・長距離性能においては、「マラソン」でこれもオリンピック級。
・格闘性能においては「格闘技」で世界チャンピオン。
これを一人の選手ですべて実現させるようなもの・・・だそうです。
世界にも全く前例のない海軍のメチャクチャな要求を、
当時の日本の工業力で実現するために堀越ら三菱重工のチームが
骨身を削るような努力を重ねたのが、
「徹底した空気抵抗の低減と、軽量化」。
これは零戦の前の「九十六式艦上戦闘機」の開発から堀越氏が
目指してきたものです。
特に軽量化において、堀越氏が部品設計チームに要求したのが、
「1グラム単位」の軽量化!
人間にあてはめると 「スーパーマイクロダイエット」 といった感じでしょうか。
空気抵抗の低減に採用されたのが、「引き込み脚」。
飛行中は、翼の付け根にすっぽり収まります。
(それ以前の日本の戦闘機の脚は飛行中も出っぱなし)
これでスピードは大きくアップ。
「こんなに細くて大丈夫?」と心配になりますが、 空母にすら着艦できるんです。徹底した軽量化の成果。 |
機体後部の「尾輪」 こちらも機体内部に収納できます。 |
プロペラは3枚で、以前の飛行機に多かった2枚より増えて、
エンジンの回転力をより多く推進力に変換できます。
「ピッチ可変」といって、エンジンの回転の増減や、
飛行状態によってプロペラの角度を自由に変えることが出来ます。
プロペラの中央の膨らみに 複雑なギアが組み込まれています。 |
主翼をはじめ外板には、住友金属で開発された
「超々ジュラルミン」が採用されています。
日本独自の開発で、従来の「ジュラルミン(アルミの合金)」の上をいく
「超ジュラルミン」のさらにその1.3倍の強度を誇りました。
(ジュラルミン→超ジュラルミン→超々ジュラルミン)
この「超々ジュラルミン」の強度を活かして、外板を薄くすることができ、
軽量化につながります。
補填した外板も多いですが、きれいに修復しています。 |
また主翼には、低速でも失速しにくい「翼端ねじり下げ」という
微妙なねじりが付けられていてます。
スペースの狭い航空母艦への着艦性能も高められています。
翼の先端に付いている「ピトー管」 これで飛行機の速度を測ります。
主翼の付け根と、胴体との繋ぎ目には緩やかなカーブを付けて
翼と胴体の間に流れる空気抵抗を減らします。
「フィレット」といい、現在の大型ジェット旅客機にも採用されています。
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また飛行機に使われる外板のアルミ合金は溶接がきかないので、
アルミの鍋などに使われる「リベット」で留めていました。
一般的なリベットは頭が半円形になっていて、飛行機に使用すると
その飛び出しが空気抵抗となり、飛行性能がかなり悪くなってしまいます。
そこで、いったんリベットを締め付けた後、半円形のリベットの頭を、
ひとつずつ削り落とさねばなりませんでした。
そののち、頭が平面の「皿型リベット」が使用されるようになり、
いちいちリベットの頭を削る必要は無くなりました。
しかし今度は、皿形のリベットが、飛び出さないために、
あらかじめ外板に皿形の凹みを削る工程が必要になりました。
空気抵抗は減らせても、またしても莫大な労力がかかってしまいます。
また凹みを削った分だけ外板の強度が落ちます。
そこで、堀越氏は「枕頭鋲(枕頭リベット)」を採用。
外板にリベットの穴だけを開けて、リベットを裏側から締め付けていくと
リベットが外板に自然に食い込んでいき、リベットの頭を削る工程も、
外板に凹みを削る工程も無いまま、外板をフラットに保つことが出来ます。
これにより、外板の強度を落とすことな空気抵抗と製造コストを
大幅に低減することが出来ました。
胴体のラインは直線ではなく、 なだらかな曲線で構成されています。 空気抵抗を少しでも減らすための工夫です。 |
「垂直尾翼」、「水平尾翼」などの操縦席から離れた部分の操作は
「ワイヤー」で操縦桿などを引っぱって行っていました。
(現在の戦闘機は、電気信号)
しかし航空機の速度が上がってくると、低速だった時代には問題なかった
「舵の効き過ぎ」という問題が起こってきました。
時速500kmを超える高速では、主翼をはじめ垂直尾翼や水平尾翼にも
大きな空気抵抗がかかっている状態となり、操縦桿のわずかな動きでも、
機体が大きく動いてしまい、操縦者の意図以上の動きをしてしまいます。
垂直尾翼 |
そこで堀越氏は、操縦桿と舵がつながっているワイヤーの強度を
あえてと落とし、伸びやすくました。
飛行速度が上がり、舵に大きな空気抵抗がかかった状態では
ワイヤーが大きく伸びて、舵の動きが小さくなり、パイロットが
意図した機体コントロールが出来ます。
逆に速度が低速の時は尾翼にかかる空気抵抗は小さいので
ワイヤーは伸びることなく舵も大きく効いてくれるのです。
これも堀越氏の考案で、「世界初」 です。
水平尾翼 |
「零戦」についての逸話をひとつ。
当時、中国大陸にて、義勇軍として戦っていた米軍の将軍から
「日本の強力な新型戦闘機が出現せり」
という無電を受け取ったアメリカ本国は、
「君は臆病風に吹かれているのではないのか?
日本がそんな戦闘機がつくれるわけがない。
本当に存在するなら、その実物を送られたし。」
と返信しました。
しかしそれは長い間実現しませんでした。
なぜならその当時に「零戦」を撃墜できる戦闘機は
米国にすらなかったからです・・・