2013年5月2日木曜日

「古くて新しい」活版印刷屋さん (その3)


「キラフテ 木の靴べら専門店」 店主の宮原です。


さてこの膨大な量の活字を自在に操るのが、

笑顔が素敵な女性の方。


活版印刷工房「ユートピアノ」の 松永紗耶加(さやか)さん。

一見すると、「印刷」という言葉とはおよそ結びつかない癒し系の方なんですが、
活版印刷を始めたいきさつを聞いて、かなりびっくり。

印刷を頼んでいた活版印刷工場が廃業することになってしまったんです。
活字も、印刷道具もすべて廃棄されちゃうときいて、あまりにもったいなくて・・・

               譲ってもらったんです(笑) 


まるで気合の入った骨董収集家のようですが、松永さんは単なる収集家ではないんです。
活版印刷の道具を譲り受けた後、修行と勉強を重ね活版印刷の技術を身につけたんです。
私も職人の端くれですので、「技術を身につける」難しさは、それこそ身に染みて感じているので、
このお若さで活版印刷のプロとして活動されていることに敬服いたしました。

で、松永さんから「活版印刷」の作業を教えていただきました。
画像で流していきますね。

ピンセットで必要な文字を探していきます。
整理されて並んでいるとはいえ、どれだけすごい記憶力!



めちゃくちゃ古い「辞書」
所蔵している活字には現用漢字以外のものもあるので、
このような古い文献も必要なのだそうだ。



拾い集めた活字は、原稿サイズに合わせてレイアウトされていく。
この机の上の作業風景は、とても現代で行っているとは思えない。

「ただいま大正初期に無事にタイムワープしました。」
気分はNHKの「タイムスクープハンター」・・・



これが名刺サイズに組まれた活字の版(一部ぼかしあり)
さまざまな大きさのブロックや板を隙間なく埋めていく。

お客さんのレイアウトが一件づつすべて異なることを考えると、
このようにきれいに隙間を埋めていく作業は
まるで「完成図のないジグソーパズル」



そうして出来上がった版を「印刷プレス機」にセットする。





「プレス機」といっても、完全手動のレトロな「ハンドプレス!」
しかも印刷は一枚づつの完全手作業!

ハンドルの長さとカーブ、工夫された持ち手の握りの形状が
このプレス作業が相当な力仕事であることを暗に物語っています。





私はこれを説明してもらった直後に名刺を注文してしまいました(笑)。

ちなみ活字の大きさと文字によっては、松永さんの膨大な活字在庫にもないことがあります。
私が名刺を作ってもらった際には、「宮原 一暢」の「暢」がなかったんですが、
活字を新規で作ってくれるそうで、製作費も一文字につき数百円程度なので安心です。

「鋳型」の技法で製作された活字。
「そうか、新しい活字は鉄の銀地肌なんだ・・・」
あたりまえだけど、意外な感想



紙質もたくさんの候補から選んぶことができます。せっかくの「活版印刷」ですので今回は、
厚い紙を選んでいただき、活版印刷の立体感を存分に楽しんでみることとしました。

松永さんの仕事ぶりはとっても丁寧。
あたらしい「暢」の活字が出来上がった後に、希望のレイアウトで試し刷りをしていただき、
それを画像で送っていただき、きちんと出来上がりを確認できます。
「プロの職人さんだ!」と同じモノづくりに携わるものとして、とてもうれしく思いましたし、
安心してお願いすることが出来ます。

ただ完全手作りですので、今どきの印刷会社のように
「名刺最短30分」、「翌日発送」というわけにはいきません。
選んだ紙の発注裁断、在庫にない文字の発注、丁寧な版組み、インクの乾燥などなど・・・
「印刷物」ではなく、もはや「作品」と考えてくださいね。

興味の湧いた方は

  「活版印刷 ユートピアノ ひがしやま荘」

のキーワードで検索して見てくださいね。




いきなりの訪問だったのにも関わらず
作業風景を快く撮影させていただきました。
撮影中は終始笑顔の絶えない楽しいひと時でした。
ありがとうございました。