2013年4月26日金曜日

「古くて新しい」活版印刷屋さん (その1)


「キラフテ 木の靴べら専門店」 店主の宮原です。



このたび、新装開店にあわせて「名刺」を作りました。




 ご覧のように極めてシンプルなデザインの名刺です。

ただ、この名刺は現在では極めて珍しい手法で作られた名刺です。
しかもとても手間がかかる「オール手作業」で印刷されているんです。

そうです。「活版印刷」なんです。
15世紀の欧州で「ヨハネス・グーデンベルグ」によって発明され、
羅針盤、火薬 とともに「世界三大発明」といわれたあの「活版印刷」です。
昭和42年生まれの私ですが、ほとんど記憶にない印刷方法です。


「私がグーテンベルグです。」
wikipediaより抜粋







では名刺を拡大してみましょう。

インクの付いた文字の部分はバッチリ刻印されてクッキリ跡が付いて凹んでいますが、
逆にその文字の周囲は盛り上がっています。

この盛り上がり方が最高なんです!
文字と紙の境界はほぼ直角にシャープに凹んでいますが、
これが周囲に広がるにつれて、ふんわりとした凹みに変わっていくんです。
私が最高に気に入っている部分なんです!

実は私たちキラフテの作業で 「角の面取り」 という作業があり、
木材の角を丁寧に丸めていくんですが、
この丸め方が弱いと握った時にチクチクしますし、
丸めすぎると全体のフォルムがだら~んとなってしまいます。

この名刺にも同じことが言えるわけで、
文字を押す力が弱すぎると、凹みによる立体感が出ませんし、
強すぎれは、紙の厚みに対して凹みが大きくなりすぎて、くどい表現となります。

この名刺が絶妙の凹み具合を醸し出しているのは、
名刺の紙質と、印刷した職人さんの力具合とが完全に調和しているからに他なりません。
これが職人さんの「手感覚」による美的センスなんですよ。



もう一つの大きな特徴があります。
それが「1/fのゆらぎ」です。

キラフテで扱う木材の木目が等間隔でなく、
微妙なズレを持つことで自然な感覚を与えるのも「1/fのゆらぎ」です。

覚えている方も多いと思いますが、20年ほど前に家電にこの原理が採用されました。
扇風機やエアコンなどで、送風を自然の風のようにをランダムに制御するというものです。

この原理がこの「活版印刷」に見事に活かされているんです!
では「活版印刷」と「パソコンで入力」したものを並べて見てみましょう。
左が「活版印刷」、右が「パソコンで入力」したもの




多少のフォントの違いはお許しいただくとして、ほぼ同位置に配置しました。
互いの「木の靴べら専門店」の文字列の
  「べら」
の部分をよ~く見てください。

「パソコンで入力」した方は文字が中心線に沿って左右均等に配置されています。
でも「活版印刷」の方は「ら」の文字がほんの少し右にずれているのがわかります。
他の文字も厳密には極めて微妙に前後左右にずれています。

これこそが「1/fのゆらぎ」で、人間の眼には実に「自然」な感じで見えるのです。
「やすらぐ」感じと言ってよいと思います。私はこの名刺に「安堵感」すら感じます。

この「ずれ」が人間にはとても大切な美的感覚要素で、
どんな美形な男女でも顔を左右で解析すると、必ずズレているんですね。
仮にパソコンでその顔の左右を全く同じにしてしまうと、とても不自然で
違和感すら感じてしまうらしいのです。


では次回にその「安堵感」を生み出す「活版印刷」との出会いを紹介いたしますね。
お楽しみに!